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広島高等裁判所 平成6年(行コ)5号 判決

第四号事件控訴人・第五号事件被控訴人(原審第一二号事件被告) 広島県知事

第四号事件被控訴人・第五号事件控訴人(原審第一二号・第六号事件原告) 加納敏雄 外一名

第四号事件控訴人・第五号事件被控訴人(原審第六号事件被告) 広島県収用委員会

第四号事件被控訴人・第五号事件控訴人(原審第六号事件原告) 加納貞子 外三名

主文

一  一審被告らの控訴に基づき、原判決主文一項を次のとおり変更する。

一審原告らの請求をいずれも棄却する。

二  一審原告らの控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、一審原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  平成六年(行コ)第四号事件

1  一審被告らの控訴の趣旨

(一) 原判決中、一審被告らの敗訴部分を取り消す。

(二) 一審原告らの請求をいずれも棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも、一審原告らの負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一) 一審被告らの控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は、一審被告らの負担とする。

二  平成六年(行コ)第五号事件

1  一審原告らの控訴の趣旨

(一) 原判決を取り消す。

(二) (1) (主位的請求)

一審被告広島県知事が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分は無効であることを確認する。

(2) (予備的請求)

一審被告広島県知事が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分はこれを取り消す。

(三) 一審被告広島県収用委員会が、昭和六一年二月二五日、起業者大竹市、土地所有者一審原告ら間の広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線及び同事業三・五・一〇九号東栄中市線に関する土地収用事件についてした裁決はこれを取り消す。

(四) 訴訟費用は、第一、二審とも、一審被告らの負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一) 一審原告らの控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は、一審原告らの負担とする。

第二当事者の主張

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実摘示(原判決八頁五行目から三三頁七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決九頁五行目の「約六一〇メートル」を「約一〇七〇メートル」と改め、同六行目の「都市計画」の後に「(当時の名称は都市計画道路中二等大路第三類第一号南栄下白石線)」を、同九行目の「旧都市計画法」の後に「(大正八年法律第三六号)」をそれぞれ加え、同九、一〇行目の「右幹線道路」を「本件都市計画道路」と改める。

二  同一〇頁一行目の「区間」の後に「(約二九〇メートル)」を、同五行目の「都市計画法」の後に「(昭和四三年法律第一〇〇号)」をそれぞれ加え、同八行目の「終点」を「本件都市計画道路の終点」と改め、同九行目の「区間」の後に「(約三一二メートル)」を加える。

三  同一一頁八行目の「直前」の後に「(本件都市計画道路の終点から約三五メートル手前付近)」を加え、同末行の「第一次事業認可のそれ」を「県施行区間及び市施行区間のそれ」と改める。

四  同一三頁一〇行目の「認可を」の後に「、平成六年三月一七日同期間を平成七年三月三一日までとする認可を、平成七年三月二七日同期間を平成八年三月三一日までとする認可を」を加える。

五  同一四頁二、三行目の「施行者となって南栄下白石線の東方部分」を「本件都市計画道路の一部である南栄下白石線の県施行区間約二九〇メートル」と、同七行目の「同被告の施行部分に沿った図面」を「、同被告知事が建設した前記県施行区間の終点をそのまま西側に延長した位置に市施行区間の道路を建設することを内容とした図面」とそれぞれ改める。

六  同一五頁一行目の「既存の道路建設に」を「前記第一次事業認可に基づいて大竹市が建設した市施行区間の完成道路部分の位置に」と、同四行目の「図面」を「縮尺二五〇〇分の一の図面、乙第一一号証の四」と、同四、五行目の「都市計画地方審議会」を「広島県都市計画地方審議会(以下、「都市計画地方審議会」という。)」と、同末行の「本件変更決定によると」を「本件変更決定を前提とした本件認可処分に基づく土地収用が行われると」とそれぞれ改める。

七  同一七頁四行目の「実質上違法な事業を初めから適法にする」を「第一次事業認可に基づいて原決定の計画に違背する区域に建設した実質上違法な事業に基づく道路である市施行区間の完成道路部分を、その道路建設工事終了後に、適法な都市計画に基づく道路とする」と、同七行目の「都市計画地方審議会」を「昭和五一年三月二三日に開催された第五五回広島県都市計画地方審議会」と、同八行目の「審議の中」を「審議手続」とそれぞれ改める。

八  同一八頁一行目の「変更決定書」を「変更決定理由書」と、同三行目の「右審議会において」から同四、五行目の「述べられただけで」までを「忠雄は、本件変更決定の変更手続の過程において、一審被告広島県知事宛に本件変更決定に反対する旨の意見書を提出したが、一審被告広島県知事は、右審議会においては、審議員に右意見書の要旨を配付しただけで、その内容を具体的には説明せず、本件変更決定の必要性に関する一審被告広島県知事側の事務当局(広島県都市計画課長)の見解を述べただけであったため、それ以上の質疑応答はなされないまま、本件変更決定をすることが適当である旨の答申がなされており」とそれぞれ改める。

九  同一九頁一〇行目の「土地所有者原告ら」を「本件各土地及び原判決の別紙物件目録六記載の建物の所有者である一審原告ら、同目録七記載の建物(以下、「本件建物」という。)の所有者である一審原告加納基宏」と改める。

一〇  同二〇頁三行目の「原告らに」の後に「一審原告加納基宏所有の本件建物の曳家移転補償を含めた」を加える。

一一  同二一頁五行目の「共有地」の後に「(大竹市白石一丁目二五九一番七、同番一一、同番一二の各土地)」を加える。

一二  同二二頁七行目の「認める。」の後に次のとおり加える。

ただし、本件各土地及び原判決の別紙物件目録六記載の建物の所有権は、昭和六一年七月三一日、大竹市が収用により取得し、同年八月八日、大竹市に対し、共有者全員持分全部移転登記が経由されている。なお、原判決の別紙物件目録三及び四記載の各土地は、同目録一記載の土地の分筆前の大竹市白石一丁目二五九一番七の宅地四八二・六四平方メートルから、同目録五記載の土地は、同目録二記載の土地の分筆前の宅地二四〇・〇〇平方メートルからそれぞれ収用による所有権移転登記請求権を代位原因として分筆されたものである。

一三  同二二頁八行目の「被告広島県知事が、」の後に「県施行区間であった」を加える。

一四  同二三頁三行目の「土地」を「本件各土地」と、同八、九行目の「審議会で被告らの主張するような見解が説明されたこと」を「本件変更決定の変更手続の過程において、忠雄が一審被告広島県知事宛に本件変更決定に反対する旨の意見書を提出したこと、右審議会において、審議員に右意見書の要旨が配付されるとともに、一審被告広島県知事側の事務当局(広島県都市計画課長)が本件変更決定の必要性に関する見解を述べたが、それ以上の質疑応答はなされないまま、本件変更決定をすることが適当である旨の答申がなされたこと」とそれぞれ改める。

一五  同二六頁一〇行目の「営まれていている」を「営まれていた」と改める。

一六  同三一頁二行目の「同目録七記載の建物」を「本件建物」と改める。

(当審における主張)

一  一審原告ら

1  一審被告広島県知事の判断に裁量権の逸脱濫用がないとの原判決の判断について

原判決は、第一次事業認可に基づく市施行区間の道路建設事業及びそれに先立って実施された一審被告広島県知事の県施行区間における道路建設事業はいずれも原決定に反した違法なものであったと認定しつつ、本件変更決定には裁量権の逸脱濫用はなく、適法とするが、このような解釈は、行政当局にとってあまりにも寛大な解釈であり、法治主義、法律による行政の理念に反するから、到底是認し得ない。

もちろん、違法に実施された都市計画事業を右実施の内容と一致させようとする都市計画の変更決定が直ちに違法となるものではないとの立論それ自体は、一審原告らにおいても、理解し得ないものではない。

しかし、本件変更決定の適法性の基準を、決定権者の判断に社会通念上著しく不相当な点がなければ適法であるとすることは許されず、行政当局の違法な行為を追認するような変更決定が許されるのは、既に行われた行為が、著しい合理性もしくは必要性を有している場合に限定されると解すべきところ、本件変更決定は、ただ単に、行政当局が自らの失策を糊塗する目的のためになされたものに過ぎず、既になされた違法行為を追認するだけの著しい合理性や必要性がないことは明白である。

原判決は、この点において、法律の解釈適用を誤っている。

2  都市計画地方審議会の権能と審理不尽の効果について

都市計画地方審議会は、法七七条により、〈1〉都市計画区域の指定(変更・廃止を含む)に際して意見を述べること(法五三条三、四項)、〈2〉建設大臣又は都道府県知事が都市計画を決定又は変更しようとするとき、当該都市計画の是非を議決すること(法一八条一項)、〈3〉市町村が決定又は変更しようとする都市計画を都道府県知事が承認するに際して当該都市計画の是非を議決すること等の権限を有する都市計画法上の重要機関とされており、都市計画(変更)決定について、行政手続上、住民の意思を反映させることのできる唯一の場であり、行政の在り方を市民がコントロールできる唯一の重要な制度的保障というべきものであるとの観点からも、利害関係人の権利、利益の保護をも目的とする極めて重要な機関である。

そうだとすれば、都市計画地方審議会には、計画変更の要否の判断に必要な資料は当然提出されなければならないところ、本件においては、一審被告広島県知事は、計画変更の要否の判断に最も重要な変更決定理由書添付の計画図(乙第一一号証の四)、総括図(同号証の三)等についても不正確ないし虚偽の記載の含まれた図面を使用したばかりでなく、忠雄の提出した意見書についてもその趣旨を曲解し、恣意的な取捨選択をした要旨をまとめて、都市計画地方審議会の議を経たものであって、本件における審議には、審議会に当然提示されるべき重要な資料を隠蔽して提出しなかったため、重要な事実について誤った前提の下に審議がなされた違法があるというべきである。

したがって、こうした違法な審議を前提としてなされた本件変更決定は、重大かつ明白な違法があるから当然無効とされるべきであり、仮に無効でないとしても、審議会の審理の内容に瑕疵があるものとして取り消されるべきものである。

一審被告らは、この点に関し、法は土地の権利等の制限を受ける者の保護を全面に掲げているものではないとか、審議会の構成員には利害関係人らの直接参加を認めないことになっており、これは利害関係人の権利、利益の保護の要請が一歩後退しているものであるから、審議会においては、個別具体的な個々人の利害の保護の観点から審議を尽くすべきことは要求されていないとか主張するが、一審被告らのこれらの主張は、いずれも、法秩序全体の根本理念を歪曲する見解である。

一審被告らが審議会の手続規定の特徴として挙げている点は、むしろ、審議会が、利害関係人に代わって利害関係人の利害や意見を一層尊重して審理すべき義務があることを示しているというべきである。

3  事情判決について

原判決は、本件において、事情判決をしているが、事情判決は違法と判定された行政処分を取り消さないことになるのであるから、事情判決の適用は、法治主義原則及び違法行政に対し裁判を受ける国民の人権保障に反するので、厳しく限定されなければならない。特に、本件においては、本件認可処分及び本件裁決を取り消したとしても、その結果は、原決定に違背した違法な事業の続行ができないだけで、公の利益に著しい障害を生ずるという場合ではないうえ、一審被告らの違法性の程度は、行政機関が市民を欺くに等しい行為をしたという重大なものであるから、事情判決を適用して請求を棄却することは一層適切でない。

また、行政事件訴訟法三一条は、事情判決をする場合には、「原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法」を考慮すべきだとしているところ、本件において、一審原告らの損害に何らかの配慮がなされる保障はない。したがって、何ら代替的保障もないまま単なる違法宣言をして請求を棄却するのは不当である。

なお、一審被告らは、本件都市計画道路の未完成部分について、現状では本件変更決定案どおりに直線の道路を建設するしかないように主張するが、右主張は、未完成部分三五メートルのみに限定して、再度の変更案を考えるからであって、広島法務局大竹出張所前付近から徐々にカーブさせ、一審原告ら所有地の前面の更地を利用するような道路にすれば、ゆるやかなカーブの道路を築造することは可能である(甲第六号証のD図の赤色部分参照)。

二  一審被告ら

1  本件審議会の審議手続に審議不尽等の取り消すべき違法があるとした点について

(一) 審議会の意義、手続等と審議会の審議に対する法的規制について

本件のような都市計画の変更に関しては、法二一条二項(一八条一項)に、都道府県知事は、「都市計画地方審議会の議を経て」、都市計画変更を決定するとの定めが置かれ、審議会の審議事項とされているところ、審議会については、法七七条、広島県都市計画地方審議会条例(昭和四四年六月三〇日広島県条例第四四号)、「都市計画地方審議会の組織及び運営の基準を定める政令」(昭和四四年二月六日政令一一号)等により、委員数は一五人以上三五人以内で、学識経験者、関係行政機関の職員、市町村の長の代表者、都道府県議会の議員及び市町村議会の議長の代表者につき、都道府県知事が任命し、専門委員や臨時委員を若干名置くことができる旨の規定はあるが、その運営については、議事に関し、前記政令の四条で審議会開始の出席数と決定方法についての定めがあるほか、前記広島県都市計画地方審議会条例及び広島県都市計画地方審議会運営規程に若干の定めが置かれているだけで、審議の方法等についての特段の明文規定は存在しないから、審議会の審議の在り方に関する規制については、法の理念及び法所定の審議会の設置の趣旨・目的、手続の在り方等を基に考究せざるを得ない。

そこで、まず、法の目的について考えるに、法が、都市化の進行とそれに伴う都市問題の深刻化に対処して、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図る」(法一条)ため、「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すること」並びに「適正な制限のもとに土地の合理的な利用」(同二条)を実現しようとするものであることは明らかであるが、その反面において、法が、土地の権利等の制限を受ける者の保護を特に前面には掲げていないこと、また、都市計画の決定・変更に関し、審議会を設置し、右決定・変更について、審議会の議を経ることとされた趣旨が、一般には、「都市計画が都市の将来の姿を決定するものであり、かつ、土地に関する権利に相当な制約を加えるものであるから、各種行政機関と十分な調整を行い、相対立する住民の利害を調整し、更に、利害関係人の権利、利益を保護することが必要であることから、学識経験者、国の出先機関の長等からなる審議会の議を経ることが適当であると考えられたためである」と解されており、審議会での審議においては、より高次の見地から都市計画決定を見つめつつ、行政機関の調整、住民間の利害調整をはかることに主眼があることからすると、利害関係人の権利、利益の保護の要請は、法の目的としては、一歩後退しているものと解される(審議会の構成委員は、法律の専門家に限定せず、広く学識経験者の参加を求め、政治、行政のエキスパートの参加を求める反面、利害関係人らの直接参加を認めないものとなっているが、審議会の委員の構成も、こうした審議会の性格を示すものである。)。

また、法二一条二項(一八条二項)によれば、審議会の手続に関し、都道府県知事は、関係市町村の住民及び利害関係人から提出された意見書の要旨を審議会に提出することが義務づけられており、審議会は、右意見書の要旨を参考にして、付議された都市計画決定(変更)案を審議するが、この場合においても、〈1〉利害関係人が記載したとおりの意見書がそのまま審議会に提出されるものではなく、行政庁によってまとめられた限度で書類審査に付せられるにとどまること、〈2〉利害関係人等に口頭陳述の機会が与えられていないこと、〈3〉採択の結果を意見提出者に通知することは義務づけられていないこと、〈4〉意見書提出権者についても、実際に土地等の権利の制約を受ける個々の者に限定せず、「利害関係人」、すなわち、都市計画(変更)案によって自ずからその権利義務に影響を及ぼされると認められる者のほか、利害を持たない一般住民をも加えていること等を考慮すると、利害関係人等の権利、利益の保護の程度は、右に述べた手続保障にとどまるものであり、右手続規定からは、都市計画(変更)決定により直接に制限を受ける個人も含め、個々人の権利保護の観点から審議を進めることが予定されているものと解することはできない。

さらに、審議会の行政組織としての性格をみるに、一般に、参与機関については、法文では「・・の議により」とか「・・の議決に基づき」等と規定されているところ、本件では「議を経て」とあるに過ぎないから、右文言の違いからすると、都市計画地方審議会の性格は、参与機関と諮問機関との中間的なものであると解する余地もあるが、審議会は、一応、単なる諮問機関(行政庁から意見を聞かれて答申又は意見の具申の任に当たる機関)でなく、参与機関(行政庁の意志設定に参与する権限ある機関)しての性格を有するものと解して差し支えない。

しかし、一般に参与機関の関与が処分の有効要件と解されることから、本件都市計画においても、その審議を経ずになされた都市計画は無効と解されることになろうが、本件のごとく一応の審議を経ているような場合には、その審議の瑕疵の態様及び程度等には様々な場合があり得るのであり、前記の審議会の意義、設置趣旨・目的、構成員の定め、及び利害関係人らに対する手続保障の在り方等から考えると、右審議会において、利害関係人の個々の利益の保護の観点に重きを置いて審理を尽くすことまで要請されているとはいい難い。

以上によれば、審議会が参与機関として重要な機関であることは疑いないとしても、法は、都市計画(変更)決定が、生き物ともいえる都市の在り方について、長期的な見通しの下に、将来の都市の範囲や施設の配置を定め、調和のとれた都市をつくりあげるため、多くの人の利害に関わる種々の考慮要素を勘案して決めるべき極めて高度の政治判断であって、審議会にその判断に見合う能力を有する構成員を配置することにより、右行政判断を慎重、適正あらしめようとしたものであって、審議会における審議の内容、判断、過程等をいかにすべきかについては、各地方ごとの審議会の合理的な裁量に委ねていると解するのが相当である。

したがって、利害関係人等の権利、利益の保護を他の考慮事項よりも重視したり、同レベルで考慮しなければならないかのごとき原判決の審議会の目的に関する判示は、明らかに法の趣旨を誤解するものといわなければならない。

(二) 裁量統制に関する違法判断基準について

審議をいかにするかは、審議会の合理的な判断に委ねられるべきものであるから、その適否をめぐる司法審査は、審議過程が、審議会に与えられた裁量権の範囲を逸脱、濫用した場合に限定されることになる。

そうすると、右裁量行為の適否をめぐっては、対象となる審議の過程が合理的といえるかにつき、「全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである」か否か、あるいは「本来もっとも重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず、または、本来考慮に入れるべきでない事項を考慮に入れ、もしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価した」といえるか否かをもって、違法判断基準とすべきである。

この意味で、ただ、「審議会の議を経ても、右審議会に当然提出されるべき重要な資料が提出されず、また、重要な事実につき誤った前提の下に審議がなされ」た審議であることだけでもって直ちに審理不尽の違法となるとの原判決の違法判断基準の定立は、右重要事項の内容的限界を明らかにしておらず、審議会の審議方法に関する裁量の範囲を不当に狭める結果を招来するおそれがあるから妥当なものとはいい難く、仮に、原判決の基準を採用するにしろ、同基準は、実質的に前述の審議会の制度趣旨等を没却するような審議過程がとられた場合に、これを経てなされた都市計画決定を違法と評価するための形式的基準と解すべきであり、本件において右基準に当たるものとしては、例えば、意見書の要旨が全く提出されなかったような場合に限定してとらえるべきである。

そして、本件では、法が審議会に対し、審議に当たり、特に土地等の制限を受ける者の権利、利益の保護を重視せよと羈束するものではないことからすると、右権利、利益に関わる事実が十分に審議に反映しないことだけを取り上げて審理が不尽となるといった短絡的な評価をすることは、明らかに法の解釈を誤るものといわざるを得ない。

なお、原判決は、審議会における都市計画課長の答弁内容が取消事由を構成する審理不尽に当たるとするが、これは、いわゆる群馬中央バス事件(最判昭和五〇年五月二九日第一小法廷判決・民集二九巻五号六六二ページ)等のように、法の規定ないし趣旨が、関係当事者に実質的な主張と立証の機会を保証する公正な手続をとるべき要請があることを前提に、このような公正手続違反が認められるときでも、直ちに当該処分の取消事由に当たるとするのではなく、その手続不備がそれに基づく判断の結論を左右するような性質の瑕疵であったときに初めてこれを取り消すべき瑕疵と解する立場に立つものと解されるところ、本件は、右の事案のように、利害関係人の関与による公正手続を確保すべしとの要請が及んでいる場合ではないから、自ずから問題の性質、状況を異にするというべきである。

(三) 本件審議会の審議手続に審議不尽があるとの点について

原判決は、審議会の審議において、〈1〉一審原告らの土地建物の収用問題が意見の要旨に記入されず、また、広島県の担当者からも言及されなかったため、この点が議論されなかったこと、〈2〉本件変更決定に至る経緯等、都市計画決定の変更が適当であることにつき、県の担当者から概括的な説明しかなされず、右経緯に関する議論がされなかったことの二点をもって、審議不尽があるとし、これが審議会の手続の違法を招来するものとするが、これらの点は、本件審議会の審議が違法であったと評価する理由にはならないというべきである。

まず、右〈1〉の点につき、忠雄の意見書中には、同人と大竹市との買収交渉の経緯については、同人が任意買収に応じなかったこと、そのやりとりの中で、大竹市の職員が、「買収に応じなければ土地収用法の手続に移行する」などと述べた旨の記載があるのに、意見の要旨としてまとめられていないこと、及び一審原告らの土地等に対する収用に関し、大竹市の都市計画課長から言及されていないことは、原判決の指摘のとおりである。

しかしながら、そもそも審議会は、個々の利害関係人等の利害に関わる事項を中心に検討するものではなく、都市計画(変更)決定に合理性が認められるかどうか、あるいはその根拠が正当であるかについて検討するものであり、収用の問題について言えば、都市計画決定や都市計画事業を考える際、当該事業の遂行において任意の用地買収が困難な場合、最終的には収用手続に移行せざるを得ないことは、当然に予想される事態であるうえ、これは将来において生起するものであり、任意買収の予定であってもその後の交渉によってはそれが困難となることも、またその逆もあり得るなど、一般に不確定な事柄であることから、都市計画(変更)決定の合理性を判断する際、特に取り上げて論じなければならない問題とはいい難い。

したがって、審議会に提出されるべき事実は、都市計画(変更)決定の合理性を裏付ける事実に関わるものであれば足り、意見の要旨についても、右合理性の判断に関わる範囲内で必要とされるもので足りると解されるところ、右〈1〉の点は、都市計画(変更)決定の合理性を裏付ける事実に含まれるとはいえない。

次に、右〈2〉の点についていえば、都道府県知事は、審議会に対し、都市計画(変更)決定については、自らが最良と考えた都市計画(変更)決定案とその根拠を示す立場にあることから、都市計画を変更するについての合理的な根拠と考えるものについて資料の提出、説明をすれば足り、後は審議会の側からの個々の質問に対し、必要な限度で応答すれば足りるものであるから、結果として、県の担当者の説明が概括的に終わったとしても、その一事をもって県の担当者が審議会の審理不尽をもたらしたことにはならない。

ここで論じられるべきは、本件審議会が本件でなされた説明や資料だけによって、本件変更決定の合理性を判断したことが審理不尽となるかであり、本件では、県の担当者の説明及び応答で足りたとした審議会の過程が、その審議内容との関係で、社会通念上著しく妥当性を欠くといえるか、または、この審理が法の趣旨に反する手続的瑕疵といえるか否かの問題に帰するところ、本件審議の過程にこうした著しい手続的不備はなく、本件審議会における県の担当者の答弁の内容いかんによって、本件審議会の結論が異なる結果となる余地もなかったことは明らかであるから、県の担当者の経緯の説明等によって審議会の結論がいかなるものとなったか定かではないとの原判決の判示には明らかな事実誤認が存在する。

2  違法性の承継について

原判決が、本件認可処分が違法な場合、その後行処分である本件裁決も違法となるとして、いわゆる違法性の承継を認めて、本件裁決を違法としたことは失当である。

一般に、行政事件訴訟法は、行政処分の効力を争う者は、当該行政処分につき取消訴訟を提起し、取消判決を得ることによってのみその効力を否定できるという、いわゆる「取消訴訟の排他的管轄」の制度を採用するとともに、取消訴訟につき出訴期間の制限(行政事件訴訟法四条)を設けて、行政過程の早期確定を図っている。

したがって、後行処分の取消訴訟において、先行処分の違法性の承継が認められることによって後行処分が取り消されたとすると、先行処分の取消訴訟によらないで、当該先行処分の効力そのものが否定されるのと同様な結果を招来することになり、取消訴訟の排他的管轄を認めた制度趣旨に反するから、現行行政事件訴訟制度の下においては、違法性の承継は認められないとするのが原則であり、これが例外的に認められるとしても、具体的な行政処分に則して、現行制度の下で保護されている行政過程の早期確定及び国民の信頼保護の要請等と、これらの対置されるべき法益としての国民の権利、利益の救済の要請とを考慮して個別的に利益考量して決められるべきである。

そこで、本件のような都市計画事業の認可段階において、利害関係人等が取消訴訟によりその違法を主張するにつき、困難な事情があるか否かについて検討するに、まず、法の規定を概観すると、都市計画事業は、市町村が都道府県の認可を受けて施行するのが原則とされ(法五九条一項)、都道府県知事は、都市計画事業を認可したときは、遅滞なくその施行者の氏名、都市計画事業の種類、事業施行期間、事業施行地を告示する等の措置を採ることになるが(法六二条一項)、この告示があると、市町村長は、事業期間の終了の日まで、〈1〉事業地を表示する図面、〈2〉設計の概要を表示する図書を事務所において公衆の縦覧に供するものとされるほか(同条二項)、法は、施行者に一定の事項の公告や権利制限、事業の概要を関係権利者に周知させる措置を採ることを要求している(法六六条)。

すなわち、まず、事業施行の告示があると、施行者は、速やかに都市計画事業の種類及び名称、施行者の名称、事務所の所在地、並びに事業地の所在を官報、公報その他所定の手続によって公告しなければならず、この公告をしたときには、その公告の内容を事業地の適当な場所に掲示しなければならない(都市計画法施行令四二条、同施行規則五二条)。

そして、この公告によって、土地建物等の有償譲渡についての制限が生ずるので(法六七条)、その制限の内容を事業施行期間の終了の日又は施行者が事業地内のすべての土地建物について、必要な権利を取得する日まで、事業地内又はその周辺の適当な場所に掲示するとともに、土地建物等の有償譲渡についての制限の内容を土地建物等の所有者に対して通知し、又は新聞紙に公告しなければならないものとされ(同規則五三条)、更に、原則として説明会を開催して、これができないときには、説明書の配付、掲示、その他の方法によって、都市計画事業の概要を事業地及びその付近地の住民に説明し、その意見を聴取することとされるなど(同規則五四条)、事業の施行について周知されるための各種措置が規定されている。

このように、法においては、都市計画事業の認可について十分な周知を図るための措置が用意されており(収用手続のためには、更に収用のための周知措置が採られる、土地収用法二八条の二)、都市計画事業認可処分に対して関係権利者が提訴を困難とする事情は存在しないのである。

以上のような法令の規定に照らせば、法は、都道府県知事がなした都市計画事業の認可の違法を、事業認可の適法性を審査する権限を有しない全く別個の行政機関である収用委員会がなした収用に係る裁決の取消訴訟における違法事由として主張させることを予定しているものとは解されないところであり、このように解しても、国民の権利、利益の救済という観点には何ら不相当な点は生じないというべきである。

したがって、仮に本件認可処分に違法があったとしても、右違法は、本件裁決に承継されることはなく、もちろん、本件裁決固有の瑕疵はないことから、原判決が本件裁決を違法とした判断は誤りといわざるを得ない。

3  本件認可処分と本件裁決に係る道路の公益性について

本件都市計画道路については、昭和三二年に都市計画がなされ、昭和五〇年ころまでに多くの地権者の了解を得て一審原告らの所有であった本件各土地の手前までの道路工事が完成し、本件審議会の議を経て本件変更決定がなされ、現在に至ったものであるが、本件変更決定時から既に約二〇年近くが経過し、その間に、本件都市計画道路周辺地域の宅地化も進行し、今や一団の住宅地を形成するに至っている(乙第六五号証)。

また、本件都市計画道路と接続する予定の東栄中市線(ただし、名称変更により、現在は油見中市線となっている。)も、昭和四八年度から昭和五四年度にかけて整備され、一審原告ら所有であった本件各土地の手前まで既に道路工事が完了している(乙第六五、第六六号証)。

そして、本件都市計画道路は、周辺の一団の住宅地と大竹駅、国道二号線方面の市街地中心部を結ぶ重要な路線となるもので、本件都市計画道路が完成することにより、今までの連絡性が大いに改善され、多くの住民の利便の向上に寄与するだけでなく、地震・火災時の避難路、消防救急活動等の防災上からも重要な機能を果たすものと期待されており、大竹市の全体の道路網の整備を見ても、本件裁決当時よりも更に進んでおり、本件都市計画道路完成の必要性もますます高まっているところであるが、本件都市計画道路の未完成部分の存在のため、一部道路が行き止まりの状態となり、他の道路までも本来の用を十分に果たし得ない現状となっており、本件都市計画道路付近住民は、やむなく周辺の細い道路を迂回せざるを得ない状態で、その不便を甘受している(乙第三六、第四〇、第六五、第六六号証)。

なお、本件各土地部分の道路工事予定区域に関し、本件都市計画道路の工事完成部分をそのまま生かして、一審原告らの住家・倉庫に全くかからないように道路を曲げる形での、本件都市計画道路位置の一部変更による工事をする余地があったかどうかであるが、本件においては、本件各土地から終点までの未完成区間の距離が三五メートルと短く、当該施行区間内において、道路構造令(昭和四五年政令三二〇号)の定める設計速度に応じた最小曲線長等の基準(乙第六七号証)を満たす曲線長が確保できず、直線とせざるを得ないため、不可能であった。

以上のとおり、現在においては、本件変更決定及びこれに基づく本件認可処分どおりに本件都市計画道路を完成させることが公共の福祉に合致する。

第三証拠〈省略〉

理由

第一本件変更決定に至るまでの経過及び本件変更決定に基づく本件認可処分の効力について

一  請求原因1(一審原告らの地位等)及び同2(本件認可処分に至る経緯)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件変更決定の違法性の有無と本件認可処分の関係について

一審原告らは、本件認可処分の前提である本件変更決定には違法事由があり、その違法性は本件認可処分に承継されるから、本件認可処分には無効あるいは取消事由があると主張するのに対し、一審被告らは、一審原告らの主張する本件変更決定の違法事由は、本件各土地以外の事業施行地すなわち第一次事業認可に基づき既に工事が終了した市施行区間の完成道路部分についての違法事由であって、違法であることを主張する何らの利害関係を有しないと主張する。

そこで、まず、この点について判断するに、本件認可処分の対象事業地は、一審被告らの主張するとおり、本件各土地のみであるが、本件認可処分は、本件変更決定がその計画変更の対象とした県施行区間及び市施行区間を含めた全体の都市計画道路の一部を事業として具体化するものであり、特に、本件変更決定に基づいて既に建設が終了した市施行区間の完成道路部分とは構造的及び機能的に密接不可分の道路部分の道路建設事業を認可する処分であるから、本件変更決定の内容と無関係にその効力を判断することはできない性質のものである。

したがって、本件認可処分に無効あるいは取消事由があるかどうかの判断は、本件変更決定との関係を考慮してこれを行う必要があるものというべきであり、本件認可処分に先行する本件変更決定に違法事由があれば、本件認可処分にもその違法性が承継されると解するのが相当である。

そうすると、一審原告らの本件変更決定についての違法事由の主張は、行政事件訴訟法一〇条一項の「自己の法律上の利益に関係のない違法」に該当するものということはできず、本件認可処分の効力を決定するについては、一審原告らの主張する本件変更決定の違法性の有無を判断する必要があるというべきである。

三  請求原因3(一)(一審被告広島県知事の裁量権の逸脱あるいは濫用)の主張について

1  請求原因3(一)(1)の事実のうち、一審被告広島県知事が、本件都市計画道路の一部である南栄下白石線の県施行区間約二九〇メートルの道路建設事業を行った際に、原決定の計画に違背した区域に道路を建設したこと、大竹市が、県施行区間の終点をそのまま西側に延長した位置に道路を建設すれば、市施行区間の道路が原決定の計画とは異なる区域に建設されることになることを知りながら、一審被告広島県知事に対し、県施行区間の終点に引き続いて市施行区間の道路を建設することを内容とした図面を添付して第一次事業認可の申請を行い、一審被告広島県知事も同申請をそのまま認可したこと、本件変更決定がなされた際、本件変更決定理由書の添付図面(原決定の道路と本件変更決定後の道路を比較対照した縮尺二五〇〇分の一の図面)が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供されたが、右図面による原決定の計画道路は、大竹中学校の校舎に接するように記載されていたこと、原決定によれば、一審原告らは、生活基盤である本件各土地を失うことはないが、本件変更決定を前提とした本件認可処分に基づく土地収用が行われるとそれを失うことになること、同(一)(2)の事実のうち、大竹市の建設した市道が第一次事業認可の際には既に存在していたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  一審被告らの主張1(本件変更決定の違法性に基づく本件認可処分及び本件裁決の違法性の主張について)の事実のうち、一審被告広島県知事が、忠雄や一審原告らから原決定の計画道路位置と第一次事業認可に基づいて建設された道路の位置が異なっている旨の指摘を受けたと主張する昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地の手前付近から終点までの約三五メートルを残してほぼ完成した状態にあったこと、右完成道路部分の一部は国道一八六号線となっており、右道路の存在を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていたこと、右道路は関係地権者の同意を得たうえで築造されていること、右道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可に係る道路では、幅員約五・五メートルの既設の市道(中市立戸線の交差点から大竹中学校の交差点までの約六五メートル)を利用したり、原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道(大竹中学校の東北端交差点から同西北端交差点までの約一四〇メートル)を拡幅することにより事業を実施することができたこと、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可に係る道路の方がとれていること、一審原告加納基宏が本件変更決定の後に当初は本件事業の事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていた住居を、後日、建築基準法による設計変更届と法五三条による建築許可により本件事業の事業地内に建築したことは、いずれも当事者間に争いがない。

3  そこで、一審原告らの一審被告広島県知事の本件変更決定に関する判断には裁量権の逸脱あるいは濫用があるとの主張について検討するに、当裁判所も、一審原告らの右主張は理由がないと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の理由説示(原判決三七頁九行目から同五七頁末行まで)のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決三七頁九行目の「一般に」の前に「法二一条一項は、都市計画区域が変更されたとき、法六条一項の規定による都市計画に関する基礎調査又は一三条一項七号の規定による政府が行う調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったとき、その他都市計画を変更する必要が生じたときは、遅滞なく、都市計画を変更しなければならない旨を定め、同条二項において、その計画変更の手続については、都市計画の決定手続に関する法一七条ないし二〇条の規定を準用しているが、」を、同一〇行目の「二一条」の後に「一項」をそれぞれ加える。

(二) 同三八頁七行目の「二一条」の後に「一項」を加える。

(三) 原判決三九頁一行目の「逸脱濫用」を「逸脱あるいは濫用」と改め、同五行目の「部分、」の後に「第七号証の一、二、第五一号証の一ないし五、第五二号証、」を加え、同行の「乙第一、第二」を「乙第一ないし第三」と改め、同六行目の「第一六号証、」の後に「第一八ないし第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証」を、同七行目の「第三〇号証、」の後に「第三三号証、」を、同八行目の「二の一、」の後に「同二の四、」を、同行の「第四三号証、」の後に「第五七号証、第六二号証、第六五ないし第六七号証、一審原告加納敏雄本人尋問の結果(原審第一回)により真正に成立したものと認められる甲第八号証、」をそれぞれ加え、同一〇行目の「(第一、二回)」を「(原審第一、二回及び当審)」と改める。

(四) 同四三頁三行目の「完成した」を「完成したが、右のような経緯から、県施行区間の道路の終点は、原決定の道路計画図の位置から少し北側へずれた状態となっていた」と改める。

(五) 同四四頁三行目の「終点を」を「終点が原決定の道路計画図の位置から少し北側へずれた状態となっていたことは十分認識していたものの、特にその点を問題とすることなく、その終点を」と改める。

(六) 同四五頁一行目の「作成した。」の後に「もっとも、大竹市の当時の担当者が右のような図面を作成したのは、道路を直線にするのが適当であると考えたためであり、道路をゆるやかにカーブさせるなどの方法により、原決定の道路位置にできるだけ近づけた形の道路を建設することができないかどうかといった詳細な検討はされなかった。」を、同三行目の「決定された」の後に「原決定の」を、同一〇行目の「三月、」の後に「本件都市計画道路の終点である東栄中市線(現在は油見中市線と名称変更)との交点の手前約三五メートルの地点である」をそれぞれ加える。

(七) 同四七頁五、六行目の「道路位置を変更する場合」を「第一次事業認可に基づいて建設しようとした道路が原決定の計画道路とは一部異なる位置となる場合、本来は、第一次事業認可の申請の際に、法二一条一項による」と改め、同一〇行目から一一行目までを削除する。

(八) 同四八頁八行目の「話し合ったが、」を「話し合い、同年九月一九日には、大竹市建設協議会の承認を得たうえ、最終的には、市施行区間の完成道路部分の一部を取り壊し、本件各土地の少し手前付近から原決定の計画道路位置に近づけた位置に市施行区間の道路を建設する旨の譲歩案も提案したが、一審原告らがそれより東側の広島法務局大竹出張所前付近から原決定の計画道路位置に近づけるよう主張して右譲歩案を拒否したため、」と改める。

(九) 同四九頁末行の「市道」の後に「幅員約七・七メートル」を加え、同行から同五〇頁一行目の「都市計画事業の認可」を「第一次事業認可」と改める。

(一〇) 同五〇頁一〇行目の「一部」の後に「約三・五メートル」を加え、同末行の「過ぎない。」を「過ぎなかったし、右道路をそのまま西側に直線に延長したため、都市計画道路の終点は、東栄中市線と直角に交わらなくなってしまったという不都合も生じた。」と改める。

(一一) 同五一頁九行目の「なされたものである。」の次に行を改めて次のとおり加える。

一審原告加納基宏は、かねてから、大竹市白石一丁目二五九一番七、同番一一、同番一二及び本件各土地上に敷地面積を九九〇・三四平方メートルとして本件建物を新築することを計画していたが、本件変更決定の後である昭和五一年七月二一日、住宅金融公庫の融資を受けられることが決定したため、同年八月四日及び昭和五二年一月二三日、建築基準法による設計変更届出を行うとともに、昭和五一年八月三一日、法五三条による建築許可を受けたうえ、昭和五二年五月一〇日、同土地上に本件建物を新築した(なお、本件建物の敷地面積は、当初は九九〇・三四平方メートルとされていたが、その後、一〇〇四・九〇〇平方メートルに変更され、最終的には五八七・五八平方メートルとなっている。)。

(一二) 同五六頁一〇行目の「二一条」の後に「一項」を加える。

(一三) 同五七頁三行目の「期待を有しないというべきではあるところ」を「利益があるとはいえないのであって」と、同八行目から末行までを「(三)以上のとおりであるから、本件変更決定に際しての一審被告広島県知事の判断は社会通念上著しく不相当であるとはいえず、したがって、右決定に関し同被告知事に裁量権の逸脱あるいは濫用があるということはできない。」とそれぞれ改める。

四  請求原因3(二)(適正手続違反)の主張について

1  法は、都市計画の決定又は変更を行う場合には、都市計画地方審議会の審議を経てこれを行うべきことを定めるとともに、都道府県知事は、右審議会による承認の答申を得なければ、都市計画を決定し又は変更することができないことを定めているが(法一八条一項、二一条二項)、その趣旨は、都市計画の決定又は変更においては、各種行政機関の調整、相対立する住民の利害の調整、利害関係人の権利、利益の保護といった種々の要請を考慮する必要が生じることから、都市計画地方審議会という第三者機関の審議を経ることを義務づけることにより、都府県知事の右の判断が適正に行われることを手続的に保障することにあるものと解される。

したがって、都市計画地方審議会における審議が適正に行われたかどうかは、都市計画の決定又は変更手続における極めて重要な要素として、都市計画の決定又は変更手続の有効要件となるものと解すべきであって、右審議会の審議手続に著しい瑕疵がある場合には、都道府県知事の都市計画の決定又は変更に関する判断にも当然に重大な影響をもたらすものとして、右審議手続は、法一八条一項又は二一条二項の規定に違背する違法なものとなるというべきである。

また、法は、都市計画を決定又は変更しようとする場合に、当該都市計画案を公衆の縦覧に供するよう定めるとともに、関係市町村の住民及び利害関係人が縦覧に供された都市計画案について都道府県知事(市町村の作成に係る都市計画案については市町村)に意見書を提出することができる旨及び都道府県知事は右意見書の要旨を都市計画地方審議会に提出しなければならない旨を定めているが(法一七条一、二項、一八条二項、二一条二項)、これは、関係市町村の住民及び利害関係人の意見を右審議会における重要な判断資料とするものであるから、右審議会に提出された意見書の要旨が実際に提出された意見書の内容と異なり、審議会の結論に影響を及ぼすような不正確、不公正なものであった場合には、右審議会の審議手続には著しい瑕疵があることになるから、適正な審議が保障されなかったものとして、右審議手続が違法とされることがあるというべきである。

2  そこで、以下、本件における都市計画地方審議会の審議手続が違法であったかどうかについて検討する。

(一) 請求原因3(二)(1)の事実のうち、一審被告広島県知事が、本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したことは当事者間に争いがない。

一審原告らは、一審被告広島県知事が本件変更決定に際して行った右手続は、実質上違法な事業に基づいて建設した市施行区間の完成道路部分を、その道路建設工事終了後に適法な都市計画に基づく道路とすることのみを目的としたもので、手続それ自体が違法であると主張する。

しかしながら、違法に実施された都市計画事業であっても、その内容に一致させようとする都市計画の変更決定が直ちに違法となるものではなく、右変更決定が違法となるかどうかは、計画変更を必要と認めた都道府県知事の判断に社会通念上著しく不相当な点があるかどうかによって決定されるものであることは、前記三の3に判示(原判決の理由説明を引用)したとおりであって、右判断に著しく不相当な点があるとまでは認められない本件においては、その変更のために行われる都市計画法所定の手続が直ちに違法とされることはないというべきである。

したがって、本件変更決定に際して行われた手続それ自体が違法であるとの一審原告らの主張は採用できない。

(二) 次に、一審原告らは、都市計画地方審議会の審議手続に請求原因3(二)(2)記載のような違法があると主張するので、以下、これらの点について判断する。

(1) まず、一審被告広島県知事が、都市計画地方審議会に原決定の計画道路と大竹中学校の校舎との距離に関し、不正確ないし虚偽の内容が記載された図面を提出するなど、都市計画地方審議会に正しい情報をすべて提示したうえでの審議を求めていないとの点について検討する。

都市計画地方審議会に提出された本件変更決定理由書添付の縮尺二五〇〇分の一の図面(乙第一一号証の四)においては、原決定の道路が大竹中学校の校舎に接するように記載されていたことは前記三の1に認定したとおりである。

ところで、成立に争いのない乙二五号証の一、第三〇号証、第四六号証の二及び弁論の全趣旨によれば、大竹中学校の校舎は、北側の水路から校舎の壁心までを一二メートル離して建設されたものであって、これを五〇〇分の一の図面上(乙第四六号証の二)に正確に表示すると、原決定の計画道路と大竹中学校の校舎との距離は西側付近においては約五〇センチメートル(図面上では一ミリメートル)離れているが、右校舎の屋根部分約一メートル(図面上では二ミリメートル)を含めると、原決定の計画道路は、むしろ右校舎の屋根部分に約五〇センチメートル(図面上では一ミリメートル)かかる状態となることが認められる。

そうすると、一審被告広島県知事が都市計画地方審議会に提出した本件変更決定理由書添付図面(乙第一一号証の四)における原決定の計画道路と大竹中学校との校舎の距離には不正確あるいは虚偽というほどの記載はないものと認められる。

なお、一審原告らは、原決定の計画道路と大竹中学校の校舎との距離は、少なくとも三メートルの余裕はあると主張し、これを裏付ける図面として甲第六号証のA図、第二七号証の二、第三一、第三三、第三四号証を提出する。

しかしながら、甲第六号証のA図は原決定の計画道路の表示が必ずしも正確ではないこと、甲第二七号証の二の図面は土地の立入調査のための参考図面に過ぎず、原決定の計画道路と右校舎との距離を正確に表示しているかどうかに疑問があること、第三一、第三三、第三四号証の各図面も、縮尺が一万分の一の図面であって、原決定の計画道路と大竹中学校の校舎との間のようなわずか数メートル程度の距離を表示する図面としてはその精度に問題があること等を考慮すると、これらの各図面が、原決定の計画道路と大竹中学校の校舎の位置や距離を正確に表示しているものとは認め難い。

以上によれば、一審被告広島県知事が、都市計画地方審議会に原決定の計画道路と大竹中学校の校舎との距離に関し、不正確あるいは虚偽の記載を含む内容の図面を提出したということはできないから、この点に関する一審原告らの主張は理由がない。

(2) 次に、一審被告広島県知事が、忠雄の提出した意見書について恣意的な取捨選択に基づく要旨の記載をしたため、本件における都市計画地方審議会において、忠雄が提出した反対意見の提出経過等についての議論がなされず、一審原告らの土地建物の収用問題についての実質的な審議もなされなかったから、右審議手続には重大な違法があるとの点について検討する。

請求原因3(二)(2)の事実のうち、本件変更決定の変更手続の過程において、忠雄が一審被告広島県知事宛に本件変更決定に反対する旨の意見書を提出したこと、昭和五一年三月二三日開催の第五五回広島県都市計画地方審議会において、審議員に右意見書の要旨が配付されるとともに、一審被告広島県知事側の事務当局(広島県都市計画課長)が本件変更決定の必要性に関する見解を述べたが、それ以上の質疑応答はなされないまま、本件変更決定をすることが適当である旨の答申がなされたことは当事者間に争いがない。

また、成立に争いのない甲第二号証、乙第一二号証、第四〇号証、第五一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六三号証及び証人平上利之(原審)の証言によれば、〈1〉忠雄は、昭和五一年三月一六日、一審被告広島県知事に対し、本件変更決定に関する意見書(甲第二号証)を提出したが、右意見書において、原決定の都市計画と異なる図面による事業認可で作った道路を本件変更決定により正当化することは不当であって、少なくとも、神社(広島法務局大竹出張所前道路の北側である大瀧神社の趣旨と解される。)から本件都市計画道路の終点である東栄中市線との交点までの区間だけでも原決定の計画道路位置に戻すべきことを主張し、その理由として、原決定の計画によれば、本件各土地の南側の更地部分が道路の対象地となっていたにもかかわらず、本件変更決定によれば、忠雄の所有地がその対象地に含まれ、同人所有の建物や工場が収用されることになること、大竹中学校の校舎と都市計画道路の距離の問題は昭和三二年に原決定による都市計画が決定された段階からわかっていることであり、事前に対処できたはずであるから、本件変更決定が必要である理由にはならないこと、既設の道路を利用したといっても県施行区間の一部であって、原決定の計画道路位置を変更するだけの理由はないこと、住民の納得を得たというが、原決定の計画図面とは異なる図面を示して関係住民の納得を得たようにしているのは大変な間違いであること等を挙げていたこと、〈2〉一審被告広島県知事が都市計画地方審議会に提出した意見書の要旨(乙第一二号証)には、忠雄の意見書の文言がそのまま記載されているわけではないものの、反対意見の内容として、原決定の計画と異なる図面による事業認可で作った道路を本件変更決定により正当化することは納得できず、神社から東栄中市線の区間だけでも原決定の計画道路に戻して事業を実施すべき旨の意見があったことが記載されており、反対意見の理由についても、大竹市が勝手に作った図面で事業認可を受け、原決定の計画図面では建物のない場所が道路となっているのに、わざわざ建物もあり、費用もかかる場所に変更していること等の記載があり、忠雄が意見書に記載した意見は、概ね右審議会に提出された意見書の要旨に記載されていたこと、〈3〉右審議会において、審議員の一人から、計画線の変更によって、周囲の者に迷惑がかかるのではないかとの質問を受けた際、一審被告広島県知事の事務当局として答弁に当たった広島県都市計画課長は、私権制限の問題は存在しないとの答弁をしているが、広島県都市計画課長が右のような答弁をしたのは、右審議員の質問の趣旨が、本件変更決定により法五三条による変更前の建築制限に伴う不利益を受ける者があるかどうかにあると理解したため、そのような不利益を受ける者はいないと答弁したものであって、一審原告らの土地建物の収用問題を回避するために著しく不誠実な答弁をしたとは認め難いこと、〈4〉また、仮に一審被告広島県知事側の事務当局の説明が不十分であったとしても、審議会における審議資料として最も重要なものは意見書の要旨であって、事務当局の説明は補足的なものに過ぎないところ、前記のとおり、意見書の要旨には、原決定の計画図面では建物のない場所が道路となっているのに、わざわざ建物もあり、費用もかかる場所に変更しているとの記載がなされており、本件変更決定によって、新たに建物のある場所が対象事業地となり、何らかの収用問題が生ずるであろうことは、右記載からも当然予想できたことであって、審議会において、こうした点が本件変更決定の判断に重要な影響を持つと考えたのであれば、右の点に関する詳細な説明を求めることは十分可能であったが、審議員からこれらの点に関する質問は出されなかったこと、がそれぞれ認められる。

右認定事実によれば、本件における都市計画地方審議会において、忠雄の反対意見の提出の経緯や一審原告らの土地建物の収用問題が十分に審議されたとはいい難いが、審議会に提出された意見書の要旨それ自体は概ね適切に作成されており、その要約が不十分であるということはできないし、審議会における審議において、一審原告らの土地建物の収用問題が特に議論されなかったのも、一審原告らの土地建物の収用問題に関する議論が意図的に回避されたためではなく、審議会が右の点についての詳細な審議をするまでもなく、本件変更決定を行うことが適当であるとの判断に達したためであって、審議会における審議が不十分であったわけではないことが認められる。

もちろん、忠雄が本件変更決定によって最も重大な影響を受ける立場にあり、本件変更決定に強い反対意見を有していたこと、都市計画地方審議会は、利害関係人の権利、利益の保護を図ることのできる唯一の機関であること等を考慮すれば、都市計画地方審議会が個々の利害関係人の権利、利益の保護を直接の目的として審議を行うものではないとしても、一審被告広島県知事の事務当局において、忠雄が反対意見を提出するに至った経緯や土地建物の収用問題をもう少し詳細に説明することは可能であり、かつ、相当でもあったと考えられるが、審議会が個々の利害関係人の土地建物の収用問題についてどの程度の審議をするかは、審議会の裁量に属する事柄と解すべきであって、本件においては、審議会が右の点について前記程度の審議で足りるとして判断した以上、審議会の右審議手続に審理不十分な点があったとまでは認め難いというべきである。

したがって、本件における都市計画地方審議会の審議手続には審議不尽の瑕疵があるから違法であるとの一審原告らの主張は理由がない。

五  請求原因4(本件認可処分の無効等)の主張について

前記に判示したところによれば、本件変更決定は、その内容が社会通念上著しく不相当であるとはいえないし、本件変更決定の審議手続が違法であるともいえないから、結局、一審被告広島県知事の本件変更決定に関する判断に違法な点はないというべきである。

そうすると、本件認可処分は本件変更決定の違法性を承継して無効あるいは取り消されるべきものであるとの一審原告らの主張は、その前提を欠くから、理由がないことになる。

第二本件裁決の違法性の主張について

一  請求原因5(本件裁決)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因6(一)(違法性の承継)の主張について

本件認可処分が違法であるといえないことは前記第一に判示したとおりである。

したがって、本件裁決は本件認可処分の違法性を承継して取り消されるべきものであるとの一審原告らの主張は理由がない。

三  請求原因6(二)(固有の違法事由)の主張について

1  請求原因6(二)(1)の事実のうち、本件各土地がいずれも大竹市所有地(水路)と境界を接することは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一七ないし第一九号証、丙第七号証及び弁論の全趣旨によれば、大竹市が昭和六〇年七月三一日付けで作成した土地調書は、一審原告らがその作成に立ち会わなかったため、一審原告らの共有地と大竹市との所有地との境界が確定しないまま作成されていることが認められる。

しかしながら、土地収用法三六条に基づいて作成される土地調書は、収用の対象とされる土地の範囲を特定するために作成されるものであって、土地の所有権の帰属範囲を決定するためのものではないから、収用される土地の範囲が土地調書によって明確になっていれば、土地の境界が最終的に確定していなくても土地調書の作成が違法になるわけではないし(もし、土地調書の記載事項が真実に反するものであれば、一審原告らは、土地収用法三六条三項に基づいて、右記載事項に異議を述べることができたはずであるが、本件において、一審原告らが土地調書の記載事項が真実に反する旨の異議を述べたことを認めるに足りる証拠はなく、また、土地調書の記載が真実に反している旨の立証はない。)、収用面積が不明となるわけではない。

そうすると、一審被告広島県収用委員会が、右土地調書に添付された実測平面図(地積測量図)に基づいて収用の対象となる土地の範囲を明確に特定したうえ、これを一審原告らの共有地と認めて本件裁決を行っていることが認められる以上、本件裁決に、収用面積を確定しないまま裁決を行った違法があるということはできないから、この点に関する一審原告らの主張は理由がないというべきである。

2  請求原因6(二)(2)の事実のうち、本件裁決は、一審原告加納基宏所有の本件建物につき、現所在地から一審原告らの共有地(大竹市白石一丁目二五九一番七、同番一一、同番一二の各土地)へ曵家することを前提に曵家移転料を決定していること、本件建物が曵家移転となる土地の共有者である他の一審原告らの過半数の同意が得られなければ、他に土地を所有しない一審原告加納基宏が本件建物を取り壊さざるを得なくなること、本件裁決は、本件建物の曵家移転について他の一審原告らの同意が得られることを前提として、一審原告加納基宏に本件建物の移転を義務づけたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、前記第一の三の2に認定したとおり、一審原告加納基宏が、本件変更決定の後に、当初は本件事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていた住居(本件建物)を、後日、建築基準法による設計変更届と法五三条による建築許可により本件事業の事業地内に建築したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一九、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、丙第七ないし第九号証によれば、一審原告加納基宏は、昭和五一年八月三一日、法五三条による建築許可を受ける以前の建築計画概要書(乙第二〇号証)における配置図においては、本件建物を一審原告らの共有地である大竹市白石一丁目二五九一番七、同番一一、同番一二の各土地上に建築することを予定していたことが認められ、右事実によれば、一審原告加納基宏以外の一審原告らも、右各土地を本件建物の敷地として利用することは承認していたものと推認するのが相当である(なお、前記建築計画概要書等には、本件建物の敷地としては大竹市白石一丁目二五九一番七及び同番一二の土地のみが表示されているが、成立に争いのない甲第一四ないし第一六号証、丙第七号証によれば、本件裁決による土地収用により本件各土地が分筆される前の旧二五九一番七の土地の地積は公簿上四八二・六四平方メートル(丙第七号証添付の地積測量図による実測面積によれば四八五・九三平方メートル)であり、同じく旧二五九一番一二の土地の地積は公簿上二四〇・〇〇平方メートル(同じく地積測量図による実測面積によれば二三九・九九平方メートル)であって、右二筆の土地の合計地積は公簿上七二二・六四平方メートル(実測面積によれば七二五・九二平方メートル)であることが認められ、右二筆の土地のみでは本件建物の当初の敷地面積九九〇・三四平方メートルに満たないことは明らかであるから、本件建物の当初の敷地面積には、同番一一の土地(公簿上の地積二四二・六四平方メートル)もその対象に含まれていたものと推認される。)。

したがって、本件裁決が、本件建物の曵家移転について他の一審原告らの同意が得られることを前提として曵家移転を義務づけているとしても、これをもって直ちに違法ということはできないというべきである。

なお、本件建物の敷地に関し、一審原告加納敏雄の本人尋問の結果(原審第一回)中には、本件建物は、当初から大竹市白石一丁目二五九一番二一の土地が分筆される前の旧二五九一番一二の土地上に建築する予定であった、また、本件変更決定の後に本件建物を現所在地である二五九一番一九及び同番二〇の各土地が分筆される前の旧二五九一番七並びに右旧二五九一番一二の土地上に建築するための法五三条の建築許可を受けているが、右許可申請も、建築業者が当初の建築確認申請の際の指示に反し、本件建物を右旧二五九一番一二の土地上ではなく、右旧二五九一番七及び旧二五九一番一二の各土地上に建築する旨の建築確認申請を行っていたため、これを是正しようとして勝手に行ったもので、自分は知らなかった等の供述部分があり、甲第七号証(証明書)にも、法五三条の建築許可申請は建築業者においてこれを行った旨を証明する記載があるが、建築業者が当初の建築確認申請や法五三条の建築許可申請に際し、建築主に建物の配置図を示さないままこれを行うことは通常考えられないから、同一審原告の右供述部分及び甲第七号証の記載は採用できない。

もっとも、他の一審原告らが前記の一審原告らの共有地に本件建物を建築することを承認しているとしても、曵家移転に伴って他の一審原告らの共有地の利用が事実上制限されることによる損失を全く考慮しなくてよいかどうかは議論の余地のあるところであり、本件裁決がこれを考慮していないことには多少疑問もないわけではないが、この点は、損失補償の問題として別に解決されるべき事柄に過ぎないから、本件裁決を違法とする事情にはならないものと解される。

3  一審被告広島県収用委員会が本件裁決を行うに際しては、前記第一の三の3に認定したとおり、起業者である大竹市において、一審原告らの協力を得て円滑に事業を進めるため、市施行区間の完成道路部分の一部を取り壊し、本件各土地の少し手前付近から原決定の計画道路位置に近づけた位置に市施行区間の道路を建設する旨の譲歩案を提案するなど(ただし、右譲歩案は、一審原告らがこれを拒否したため、実現には至らなかった。)、本件各土地の収用をできるだけ避けるための事前の努力を行っていることが認められ、本件裁決に至った経過についても何ら不合理な点はない。

4  以上によれば、本件裁決に固有の違法事由があるとの一審原告らの主張も理由がない。

第三結論

以上に判示したところによれば、一審原告らの請求はいずれも理由がないものとしてこれを棄却すべきであるから、原判決が、本件認可処分及び本件裁決が違法であるとしたうえ、行政事件訴訟法三一条一項を適用して事情判決をしたことは失当であって、この部分につき変更を免れない。

よって、一審被告らの控訴は理由があるから、一審被告らの控訴に基づき、原判決主文一項を本判決主文一項のとおり変更することとし、一審原告らの控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本榮一 渡邉了造 亀田廣美)

別紙物件目録〈省略〉

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告らの請求をいずれも棄却する。

ただし、被告広島県知事が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってなした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分並びに被告広島県収用委員会が、昭和六一年二月二五日、起業者大竹市、土地所有者昭和六一年(行ウ)第六号事件原告ら間の広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線及び同事業三・五・一〇九号東栄中市線に関する土地収用事件につきなした裁決は、いずれも違法である。

二 訴訟費用は、昭和五九年(行ウ)第一二号事件と昭和六一年(行ウ)第六号事件を通じ、すべて被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件)

1 主位的請求

被告が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってなした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分は無効であることを確認する。

2 予備的請求

被告が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってなした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分はこれを取り消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件)

1 被告が、昭和六一年二月二五日、起業者大竹市、土地所有者原告ら間の広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線及び同事業三・五・一〇九号東栄中市線に関する土地収用事件につきなした裁決はこれを取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告ら、同六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

1 原告らの地位等

加納忠雄(以下、「忠雄」という。)は、別紙物件目録一ないし五記載の各土地及び同目録六記載の建物を所有していたが、昭和五一年一二月二六日死亡し、本件両事件原告ら六名がこれらを共同相続した。

2 本件認可処分に至る経緯

(一) 建設大臣は、昭和三二年三月三〇日建設省告示第三九九号をもって、広島県大竹市南栄一丁目の国道二号線を起点とし、旧国鉄大竹駅南側の市街地を経由して、大竹市白石一丁目地内の南北にわたる都市計画道路東栄中市線(以下、「東栄中市線」という。)との連結点を終点とする、東西にわたる幹線道路(全区間約六一〇メートル、以下、「本件都市計画道路」という。)についての都市計画の決定(以下、「原決定」という。)を行った。

(二) そして、建設大臣は、原決定に基づき、昭和四〇年七月一五日建設省告示第一八五四号をもって、旧都市計画法三条の規定により、まず右幹線道路の一部にあたる都市計画道路青木線(以下、「青木線」という。)との交点から都市計画道路中市立戸線(以下、「中市立戸線」という。)との交点までの区間について、都市計画事業及びその執行年度割の決定を行い、施行者である被告広島県知事が同事業に着手し、昭和四七年三月ころ右道路部分が完成した(以下、この部分を「県施行区間」という。)。

(三) その後、被告広島県知事は、昭和四七年七月二八日広島県告示第六五七号をもって、都市計画法(以下、単に「法」というときは同法をいう。)五九条一項の規定により事業認可(以下、「第一次事業認可」という。)を行い、施行者である大竹市が、前記県施行区間に引き続き、その西方への延長部分にあたる中市立戸線との交点から終点である東栄中市線との交点までの区間(以下、「市施行区間」という。)について道路建設事業に着手した。

(四) ところが、右第一次事業認可は、原決定の計画に違背し、これに定められた建設予定区域よりも約一〇メートル北側にずれた区域に道路を建設する内容となっていたため、昭和四九年の暮れころ、これを知った忠雄は、そのままでは右都市計画道路が当時同人所有であった別紙物件目録三ないし五の土地(以下、「本件各土地」という。)に相当部分かかってくることから、大竹市に対し、再三にわたってその誤りを指摘して是正方を申し出たが、大竹市は、同人の申出を無視し、原決定に違背したまま第一次事業認可に従って道路建設を進め、昭和五〇年三月ころに至って、本件各土地の直前でいったん工事を中止した。

(五) しかるに被告広島県知事は、昭和五一年三月三〇日広島県告示第二四三号をもって、法二一条、二〇条の規定に基づき、都市計画上の道路位置を第一次事業認可のそれに合致するように原決定を変更し(以下、「本件変更決定」という。)、その際都市計画の種類及び名称を広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線(以下、「南栄下白石線」という。)と改めた。

(六) そして、第一次事業認可は、既に昭和五〇年三月三一日をもって失効していたことから、大竹市はあらためて被告広島県知事に対し都市計画事業の認可申請をなし、被告広島県知事は、昭和五九年三月二七日付で、本件変更決定を前提として、法五九条一項の規定により、第一次事業認可の際に工事がなされなかった本件各土地を直接事業対象とする南栄下白石線について、施行者を大竹市として都市計画事業の認可処分(以下、「本件認可処分」という。)を行った。

(七) その後、本件認可処分の事業施行期間は昭和六一年三月三一日までとされていたため、被告広島県知事は、同月二四日法六三条一項により、都市計画事業の事業計画の変更として、事業施行期間を昭和六二年三月三一日まで変更する認可を行い、さらにその後も同様に、昭和六二年二月二六日同期間を昭和六三年三月三一日まで変更する認可を、昭和六三年三月二八日同期間を昭和六四年三月三一日まで変更する認可を、平成元年三月二〇日同期間を平成二年三月三一日まで変更する認可を、平成二年三月二六日同期間を平成三年三月三一日まで変更する認可を、平成三年三月一八日同期間を平成四年三月三一日まで変更する認可を、平成四年三月九日同期間を平成五年三月三一日まで変更する認可を、平成五年三月一一日同期間を平成六年三月三一日まで変更する認可をそれぞれ行った。

3 本件変更決定の違法性

(一) 裁量権の濫用

(1) 被告広島県知事は、前記2(二)のとおり自ら施行者となって南栄下白石線の東方部分の道路建設事業を行っているが、その際、既に原決定の計画に違背する区域に道路を建設する失策を犯していたのであって、これに引き続いて事業を行う大竹市としては、当然県施行区間の終点を起点として着工せざるを得なくなり、原決定の計画とは異なることを充分知りながら、被告広島県知事に対し同被告の施行部分に沿った図面を添付して前記第一次事業認可の申請を行うこととし、被告広島県知事はそのまま同申請を認可した。

そして、本件変更決定は、被告広島県知事及び大竹市において何ら正当な理由がないにもかかわらず原決定の計画に反する区域に道路を建設した後、被告広島県知事が、既存の道路建設に都市計画を合致させるために原決定の変更を迫られて行われたものである。この変更決定の際、広島県都市計画課によって作成された変更決定理由書添付図面(原決定の道路と変更決定後の道路とを比較対照した図面)が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供されたが、右図面による原決定の道路は市立大竹中学校(以下、「大竹中学校」という。)の校舎に接するように記載されているが、真実は少なくとも三メートルの余裕はあるのであって、右図面はきわめて不正確であり、本件変更決定を正当化するため故意に歪曲したものである。

また、原決定によれば、原告らは生活基盤である本件各土地を失わずにすんだものを、本件変更決定によるとそれを失うことになるのであって、本件変更決定は、自己所有の土地を失うことなく従前どおりの生活、営業を維持しうると信頼してその生活の設計を組立てていた原告らの信頼を完全に裏切るものである。

(2) 右の経過に照らすと、被告広島県知事の行った本件変更決定は、先になされた原決定の拘束力を全く無視し、行政庁が自らの違背・失策を糊塗し、既成の事実を正当化しようとして専ら不正不純な動機に基づいて恣意的になされたものであるばかりか、原決定を信頼した原告らに対し多大の不利益を課すものであるから、法二一条一項の解釈適用を誤り、裁量権を濫用もしくは逸脱したものである。なお、右の点に関し、被告らは、本件変更決定後の道路区域の方が大竹市の建設した市道を有効に利用できると主張するが、右市道は第一次事業認可の際には既に存在していたのであるから、その時点で原決定を正式に変更すればよく、それは容易になしえたはずである。

(二) 適正手続違反

(1) 被告広島県知事は、実質上違法な事業を初めから適法にすることのみを意図して、本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したのであり、右手続はそれ自体違法である。

(2) また、右変更決定にあたって、都市計画地方審議会で審議がなされてはいるが、右審議会での審議の中には以下の理由で手続的に重大な違法がある。

〈1〉 被告広島県知事は、右審議会に正しい情報をすべて提示して審議を求めてはおらず、また、前記3(一)(1)のとおり虚偽の内容が記載された変更決定書添付図面を送付したものであるから、その手続には重大な違法がある。

〈2〉 右審議会において、審議員の中には忠雄の反対の理由がもっともではないかとの意見もあったが、被告らの主張するような見解が述べられただけで、反対意見の提出の経緯等については何らの議論もなされないままに終わっている。

〈3〉 右審議会において、当時の都市計画課長は、審議員の一人から「計画線の変更によって周囲の所有者に迷惑が掛かるのではないか。」との質問を受けた際、真実は原告らの土地建物を収用等しなければならないのに、そのような問題は存在しないかのような答弁をなし、議論を回避した。したがって、右審議会では、実質的な審議がなされていない。

4 本件認可処分の無効等

したがって、本件変更決定には、法二一条に違反した重大かつ明白な違法が存する。本件認可処分は、これに先行する本件変更決定を前提とするものであるから、その違法性を承継して無効もしくは取り消されるべきものである。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

5 本件裁決

被告広島県収用委員会は、起業者大竹市の裁決申請及び明渡裁決の申立てを受け、昭和六一年二月二五日、同市と土地所有者原告ら間の前記南栄下白石線及び東栄中市線に関する土地収用事件について、要旨次のとおりの裁決(以下、「本件裁決」という。)をなした。

(一) 本件各土地及び別紙物件目録六記載の建物を収用する。

(二) 右に対し、原告らに損失補償をなす。

(三) 権利取得の時期及び明渡の期限は、昭和六一年七月三一日とする。

6 本件裁決の違法性

(一) 違法性の承継

前記4のとおり、本件認可処分は違法であり、無効もしくは取り消されるべきものであるから、これを前提とする本件裁決はその違法性を承継して取消を免れない。

(二) 固有の違法事由

(1) 本件裁決により収用される本件各土地は、いずれも大竹市所有地(水路)と境界を接するものであるが、未だ右官民境界は確定されていないのであるから、収用面積を確定しないままなされた本件裁決は審理不十分の違法がある。

(2) また、本件裁決は、原告加納基宏所有の同目録七記載の建物につき、現所在地から原告らの共有地へ曳家することを前提に曳家移転料を決定しているが、原告加納基宏が共有者である他の原告らの過半数の同意を得られなければ、他に土地を所有しない原告加納基宏は右建物を毀滅せざるを得なくなる。しかるに、本件裁決は、右同意が当然得られることを前提として、原告加納基宏に対し、家屋の移転を義務づけたものである。したがって、本件裁決は、この点において審理不十分の違法がある。

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告轣A同六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

7 結語

よって、昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告らは、本件認可処分につき、主位的に無効であることの確認を、予備的にその取消を求め、昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らは、本件裁決の取消を求める。

二 請求原因に対する認否

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件被告、同六一年(行ウ)第六号事件被告)

1 請求原因1及び2の各事実は認める。

2 同3(一)(1)のうち、被告広島県知事が、南栄下白石線の東方部分の道路建設事業を行った際に原決定の計画に違背する区域に道路を建設したこと、大竹市が原決定の計画とは異なることを知りながら、第一次事業認可の申請を行い、被告広島県知事が同申請を認可したこと、変更決定理由書添付図面が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供され、右図面による原決定の道路が大竹中学校の校舎に接するように記載されていること、原決定によれば、原告らは生活基盤である土地を失わないが、本件変更決定によるとそれを失うことになることは認め、その余は否認し、同(一)(2)のうち、大竹市の建設した市道が第一次事業認可の際には既に存在していたことは認め、その余の事実は否認する。

同(二)(1)のうち、被告広島県知事が本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したことは認め、その余は否認する。同(二)(2)のうち、審議会で被告らの主張するような見解が説明されたことは認めるが、その余は否認し、主張は争う。

なお、原告らのいう既成事実とは本件各土地以外の事業施行地を指すのであって、原告らはこれに何ら利害関係を有しないから、原告らが本件認可処分の取消等の理由として主張する本件変更決定の違法は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行政事件訴訟法一〇条一項)に該当するものであって、主張自体失当である。

3 同4の事実は否認する。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件被告)

4 請求原因5の事実は認める。

5 同6(一)の事実は否認する。

同(二)(1)のうち、本件各土地がいずれも大竹市所有地(水路)と境界を接することは認め、その余は否認する。

なお、被告広島県収用委員会は、土地調書に添付された実測平面図に基づいて収用しようとする土地の範囲を特定し、これらの範囲につき昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らの共有と認めたものである。仮に右原告らが主張するように、右原告らの共有地と大竹市の所有地との境界が不明であって右収用しようとする土地の範囲に大竹市の所有地が含まれている可能性があった場合において右原告らからその旨の主張がなされる等の事由により同被告がその可能性を認めたときには、同被告としては、所有者不明の裁決を行うこととなったにすぎない。その場合においては、右原告らは、供託された補償金につき大竹市と配分を決めればよいのであるが、大竹市が右土地について所有権を主張していない本件では、右原告ら主張の事実をもって本件裁決を取り消す事由とする利益は右原告らに存しない。

同(二)(2)のうち、本件裁決に審理不十分の違法があることは否認し、その余は認める。

三 被告らの主張

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件被告、同六一年(行ウ)第六号事件被告)

1 本件変更決定の違法性に基づく本件認可処分及び本件裁決の違法性の主張に対して

被告広島県知事が、忠雄や原告加納敏雄から原決定と第一次事業認可とが異なっている旨の指摘を受けた昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地部分を残して事実上ほぼ完成した状態にあった。右道路の一部は国道一八六号線となっており、右道路を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていていること、関係地権者の同意を得て右道路を築造していることも考え併せると、これらの既存の権利、利用関係を覆して原決定どおりに道路を作り替えることは公の利益や関係権利者の利益に著しい障害を生じることとなり、到底不可能であった。

一方では、原決定の変更をせずこのまま放置すれば、法五三条の建築制限が、もはや道路が築造されないことが明らかな土地にも適用されることとなり、関係住民に不利益を与えることとなっていたところである。

このように、土地利用の状況が変化していたことに加えて、被告広島県知事の調査の結果からは、本件都市計画道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可にかかる道路では、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道の拡幅により事業を実施することができ、この方が原決定にかかる道路よりも周辺の土地の適正かつ合理的な利用に寄与することができること、また、用地補償費も軽減されること、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可にかかる道路の方がとれており、教育環境上も望ましいことなど、原決定以後に生じた客観的状況の変化に対応して、より高い公益目的を追及する見地からは、原決定にかかる道路よりも第一次事業認可にかかる道路の方が都市計画としてより適切な内容であることが明らかとなり、道路線形は直線が最も望ましいことを考え併せて、県施行区間も含め、都市計画の変更を行うこととし、既に工事が完了した部分までの第一次事業認可と同一位置に、本件変更決定をなしたのである。

また、本件では、原告加納基宏は、本件変更決定の後に、当初は本件事業の事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていたにもかかわらず、後日、わざわざ同法による設計変更届と法五三条による建築許可を受けて本件事業の事業地内に住居を建築したものであって、本件事業の施行による原告らの損失なるものは、原告らが自ら作り出したものである。

なお、被告広島県知事は、変更計画案を策定し、公衆の縦覧に供し、住民及び利害関係人から意見書の提出を求め、意見書の要旨を昭和五一年三月二三日開催の第五五回広島県都市計画地方審議会に提出し、同審議会から変更することが適当であるとの答申を得たうえ、昭和五一年三月二五日付建設省広都計発第三号をもって建設大臣の認可を得、昭和五一年三月三〇日広島県告示第二四三号をもって右都市計画の変更を行ったものであって、適正な手続が遵守されている本件では、裁量権の濫用が認められる余地はない。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件被告)

2 本件裁決固有の違法事由に対して

(一) 本件裁決にかかる土地調書は、起業者大竹市が昭和六〇年二月二七日立入調査を行ったうえで作成したものであるが、右調書の作成においては、起業者が土地収用法三六条二項の規定による立会及び署名押印を土地所有者である昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らに依頼したものの、右原告らは立会及び署名押印を拒んだので、起業者は同法三六条四項の規定により大竹市総務課の職員に立会を求め、署名押印させた。したがって、同法三六条ないし三八条の規定により、右原告らは、右調書の記載事項について、それが真実に反することを立証しない限りは異議を述べることはできないのである。そればかりか、右原告らは、本件裁決手続の間、本件裁決にかかる土地の面積の不確定について何らの意見も述べていないのであるから、被告広島県収用委員会が右の点を考慮せず、右土地調書の記載に基づいて裁決したのは当然であり、本件裁決は審理不十分の違法はない。

(二) 原告加納基宏所有の同目録七記載の建物の建築計画概要書等によれば、同原告は昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らの共有地を右建物の敷地として使用することにしていたと認められるのであって、そうだとすれば、本件裁決によって右共有地の一部の上に曳家されるとしても、それは建物の敷地として原告加納基宏が使用することを他の原告らが予め認めていた土地の範囲であるから、何ら不都合はなく、本件裁決は、この点において審理不十分の違法はない。

四 被告らの主張に対する認否

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告ら、同六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

1 被告らの主張1のうち、被告広島県知事が、忠雄や原告加納敏雄から原決定と第一次事業認可とが異なっている旨の指摘を受けた昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地部分を残してほぼ完成した状態にあったこと、本件都市計画道路の一部は国道一八六号線となっており、右道路を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていること、関係地権者の同意を得て右道路を築造していること、本件都市計画道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可にかかる道路では、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道の拡幅により事業を実施することができること、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可にかかる道路の方がとれていること、原告加納基宏が本件変更決定の後に当初は本件事業の事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていたにもかかわらず、後日、建築基準法による設計変更届と法五三条による建築許可を受けて本件事業の事業地内に住居を建築したこと、被告広島県知事が本件変更決定に際し、被告ら主張の手続を経たことは認め、その余の事実は否認する。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

2 同2(一)のうち、審理不十分の違法がないことは否認し、その余は認める。同2(二)の事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一 請求原因1及び2について

請求原因1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二 請求原因3及び被告らの主張1について

1 請求原因3(一)(1)のうち、被告広島県知事が、南栄下白石線の東方部分の道路建設事業を行った際に、原決定の計画に違背する区域に道路を建設したこと、大竹市が原決定の計画とは異なることを知りながら、第一次事業認可の申請を行い、被告広島県知事が同申請を認可したこと、変更決定理由書添付図面が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供されたが、右図面による原決定の道路は大竹中学校の校舎に接するように記載されていたこと、原決定によれば、原告らは生活基盤である土地を失うことはないが、本件変更決定によるとそれを失うことになること、同(一)(2)のうち、大竹市の建設した市道は、第一次事業認可の際には既に存在していたこと、同(二)(1)のうち、被告広島県知事は、本件変更決定に際して、都市計画法所定の手続を履践したこと、被告らの主張1のうち、被告広島県知事が忠雄や原告らから原決定と第一次事業認可とが異なっている旨の指摘を受けた昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地部分を残してほぼ完成した状態にあったこと、右道路の一部は国道一八六号線となっており、右道路を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていていること、右道路は関係地権者の同意を得たうえで築造されていていること、右道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可にかかる道路では、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道の拡幅により事業を実施することができること、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可にかかる道路の方が離れていること、原告加納基宏が本件変更決定の後に当初は本件事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていたにもかかわらず、後日、建築基準法による設計変更届と法五三条による建築許可を受けて本件事業地内に住居を建築したこと、被告広島県知事が本件変更決定に際し、被告ら主張の手続を経たことは、いずれも当事者間に争いがない。

2 被告らは、原告らが本件認可処分が違法であることの理由として主張する本件変更決定の違法は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行政事件訴訟法一〇条一項)にあたると主張するので、まずこの点について判断するに、原告らの主張の趣旨は、いわゆる既成の土地(本件各土地と関係ない事業施行地)に関する部分が違法であることを理由として本件変更決定の違法をいうものではなく、被告広島県知事が違法な既成事実を適法化する意図をもって本件各土地にかかる右決定を行ったとして、右決定全体についてその裁量権を濫用した違法等があることをいうものであるから、原告らの主張する本件変更決定の違法を、「自己の法律上の利益に関係のない違法」とみることはできないというべきである。

したがって、この点に関する被告らの主張は採り得ない。

3 原告らは、本件変更決定が都市計画法の解釈適用を誤って裁量権を逸脱濫用してなされたものであると主張する。

(一) 一般に、法二条の定める都市計画の基本理念、法一三条一項四号、二項の定める都市計画のよるべき基準に照らして考えると、法二一条により道路に関する都市計画を変更するか否かの判断は、土地利用、交通等の現状及び将来の見通し等を勘案して、健康で文化的な都市生活及び円滑で機能的な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するという見地から、元の都市計画による道路の規模や位置と、想定される変更案による道路の規模や位置とを比較し、いずれがより適当かという観点でなされるべきものである。

ただ、右の判断は、事柄の性質上極めて政策的、専門技術的なものであること、法文上も、法一三条一項四号、二項、二一条は概括的な表現をするに止まっていることからすると、都市計画を変更する否かの判断は、第一次的には都道府県知事又は市町村の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。したがって、本件変更決定の適否の審査においても、前記考慮要素についてされた被告広島県知事の判断に社会通念上著しく不相当な点があり、その裁量権の逸脱濫用があったと認められる場合にのみ、本件変更決定は違法となるものである。

(二) 本件変更決定の経緯等

(1) いずれも成立に争いのない甲第三号証、第五号証中大竹市建設協議会議事録(写し)の部分、乙第一、第二、第五、第六、第八号証、第一一号証の二、四、第一四ないし第一六号証、第二四号証の一ないし四、第二六号証の一、二、第二九号証の一ないし三、第三〇号証、第三八号証の二の一、第四三号証、証人平上利之(第一、二回)、同有谷東南、同神本佳明、同深本国夫、同田中祐夫(後記措信しない部分は除く。)、同吉田弘の各証言、原告加納敏雄本人尋問の結果(第一、二回)、弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実を認めることができる。

大竹市は、原決定後の昭和三七年、本件都市計画道路の周辺である大竹市大竹町大竹字下白石二五七〇番地に大竹中学校を建設した(大竹中学校の校舎は、原決定にかかる都市計画道路に沿って、しかも殆ど道路に接するように近接して建てられているが(最も近接しているところでは数十センチないしはせいぜい三メートルである。)、当時何故そのような建て方がなされたかは明らかではない。)。

また、その当時、大竹簡易裁判所が大竹市白石一丁目の国有地に建替えられ、翌年には大竹区検察庁が同地で建替えられる予定であり、更に広島法務局大竹出張所も同地への移転が計画されていた。従来、右国有地への出入りには、主としてその北側にあった私道が利用されていたが、右各庁舎への出入りが不便であったため、国は大竹市に対し、右国有地の西側及び南側の一部を提供するので新たに市道を整備してもらいたい旨要望していた。大竹市は、提供の申出があった右国有地の南側の土地(以下、「検察庁前の土地」という。)については、これに並行して本件都市計画道路としての道路予定地があるので、これと一部重複するが、右都市計画道路全体の整備がいつ実施されるか具体的に目処が立っていなかったので、とりあえず右検察庁前の土地を市道として整備することとし、将来の都市計画道路との整合については、右整備事業が具体的になった時点で考えることとして、昭和三七年六月、幅八メートル延長一八〇メートルの市道を路線認定した(以下、これを「検察庁前の市道」という。)。

昭和四〇年、大竹市は都市計画の県施行区間の道路の位置を記した図面(以下、「県施行区間図面」という。)を作成して広島県に渡したが、右図面上の県施行区間の道路の位置は、原決定による道路の位置と異なるものであった。広島県は、都市計画課において右図面を検討したが、同三二年の原決定後から同四〇年までの間に、本件都市計画道路周辺には、大竹中学校、大竹区検察庁、大竹簡易裁判所、広島法務局大竹出張所が新築または改築され、検察庁前の市道が整備されたのに、広島県保管の縮尺三〇〇〇分の一の計画図には、右建物や市道が記載されていなかったので、広島県は県施行区間図面が原決定における道路計画図とずれた内容であることに気付かぬまま、認可を受けるため県施行区間図面を建設大臣に提出した。建設大臣は、これを受けて、原決定に基づき、昭和四〇年七月一五日、本件都市計画道路の一部にあたる都市計画道路青木線との交点から都市計画道路中市立戸線との交点までの区間について、都市計画事業及びその執行年度割の決定を行い、広島県は右認可に基づいて、同四七年三月、その施行区間の道路を完成した(証人田中祐夫は、この点について、広島県は、県施行区間につき、原決定によるよりも幅五・五メートルの既存の道路を利用した方が補償費等の点で有利であるから、原決定と異なる内容の事業を施行したという趣旨の証言をするが、証人平上利之(第一回)、同有谷東南の各証言によれば、広島県は昭和五〇年一月までは原決定と事業の実施とがずれていることを知らなかったと認められるから、右証言は信用できない。)。

昭和四七年、大竹市は、市施行区間についての都市計画事業の認可を被告広島県知事に申請するにあたって、法六〇条三項及び都市計画法施行規則四七条の規程に基づいて「事業地を表示する図面」として、縮尺一万分の一の位置図と縮尺五〇〇分の一の実測平面図を添付した。

大竹市は、県施行区間の終点を市施行区間の起点として道路の線引を行ったが、その際、原決定の始点終点と実際の施行の始点終点とが完全に一致していなくとも、一部重なっている部分があれば、それは都市計画法上の都市計画変更手続を要しない軽易な変更(法二一条二項)にあたると考えていた。そこで、原決定の道路位置よりも認可申請図の道路位置の方が大竹中学校から離れて道路を造ることができるので教育環境上望ましく、また検察庁前の市道を利用してこれを拡幅するので合理的であるから、右のように道路を配置するのが適切であると判断して、原決定の道路と起点終点が一部重なるものの、途中の経路が異なる位置に道路を記した図面を作成した。広島県の担当者は、この認可申請を受けて、当該都市計画事業の内容が都市計画に適合しているかどうかについて位置、区域を昭和三二年三月に決定された都市計画の計画図と照合したものの、被告広島県知事保管の三〇〇〇分の一の計画図には、大竹中学校、大竹区検察庁、両者間の前記市道等が表示されていなかったこと及び大竹市の申請は原決定どおりになされているであろうと先入観をもっていたことから両図面上の差異に気付かなかった。そして、被告広島県知事は、右申請に従い、第一次事業認可をなした。

大竹市は、第一次事業認可の事業に着手し、右認可内容に従って工事を施行し、昭和五〇年三月、本件各土地の手前に至るまでの部分を完成させた。

ところで、忠雄及び原告加納敏雄は、昭和五〇年一月ころになって、本来ならば都市計画道路は本件各土地にはかからない筈であるのに、道路が本件各土地の方に向かって進められていることに気付いて調査した結果、第一次事業認可の事業地と原決定に定められた区域とが一部異なることを知った。そして大竹市や広島県並びに建設省にその旨の抗議をするとともに、右工事を中止するようにとの要請を繰り返し行った。

忠雄らの抗議に対して、当初はそのようなことは有り得ないと取り合わなかった広島県も、国からの指示により現地及び図面を調査した結果、原告らの申し出どおり第一次事業認可の事業地の一部が原決定に定められた区域と異なることを知った。そして、同時に県施行区間にも原決定と異なる部分があること、昭和三二年の原決定後、大竹中学校、大竹区検察庁、検察庁前の市道ができたこと、原決定による図面にはこれらが記載されていなかったこと、大竹中学校北東端交差点までの道路部分については既存の市道の拡幅により工事が実施されていること、本件各土地の前までほぼ工事が完成した状況であったこと、これらの道路の一部は既に一般住民の利用に供されていたこと、右のように道路位置を変更する場合、都市計画の変更が必要なことも順次判明した(広島県は、忠雄らの抗議の後も、大竹市の第一次事業認可に基づく工事を直ちに中止させず、その本件各土地の手前に至るまでの続行を、暫くの間放置していたのである。)。

なお、原告加納基宏は、昭和五一年八月に別紙物件目録七記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築した。

大竹市は、第一次事業認可申請図どおりに道路を設定するのが望ましいが、第一次事業認可は原決定に違背しているので直ちには強制的手段を取ることができないこと、したがって道路用地の地権者の協力がなければ事業の早期完成は困難であることから、原告らの協力を得て円滑に事業を進めたいという配慮により、昭和五〇年四月ころから、広島県と協議の上、場合によっては築造済の道路を途中から湾曲させることによってなるべく本件各土地を避けて原決定上の道路予定地を通すことを考えるという含みを持って原告らと話し合ったが、結局合意には至らず、同年一二月二三日における最終の話し合いの後、第一次事業認可申請図どおりに道路を配置するという方針を固めた。

大竹市の右方針を受けて、広島県は、昭和五一年一月から建設省と協議し、第一次事業認可どおりに都市計画を変更した場合の法的問題点を検討した上、同年二月から具体的な変更案を作成する作業に入った。

そして、被告広島県知事は、右作業を踏まえて、県施行区間については、付近一帯が密集市街地であるとともに本件都市計画道路と並行して幅約五・五メートルの市道が通っていたため、右市道の拡幅により事業を実施した方が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するばかりでなく、用地補償費の軽減にもなること、市施行区間については、中市立戸線との交差点から大竹中学校の東北端交差点までの約六五メートルについては、県施行区間と同様幅約五・五メートルの右市道を有効に利用でき、また大竹中学校の東北端交差点から同西北端交差点までの約一四〇メートルについては、既に検察庁前の市道を整備しており、都市計画事業の認可のとおり、この道路の拡幅により事業を実施した方が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するばかりでなく、用地補償費の軽減にもなること、原決定によれば、昭和三七年に建設された大竹中学校の校舎にほぼ接して道路が築造されることになるところ、右の市道を利用することにより、道路を右校舎から約七メートル離すことができ、学校の教育環境上も適切であることを理由とする変更計画案を策定し、都市計画法所定の手続を経て本件変更決定を行った。

ただ、既設の道路を利用できるのは事実であるが、実際は、検察庁前の市道を利用したといっても、本来予定されていた幅一二メートルの都市計画道路の本体として利用したのはその一部で、他の部分は幅約四メートルもの歩道になるに過ぎない。用地補償費については、確かに県施行区間については二〇二一万四〇〇〇円の費用節約になるが、市施行区間については、原告らに支払うべき用地補償費を考慮するとかえって四七四万六〇〇〇円ほど高額になり、両方を総合すれば、一五四六万八〇〇〇円の費用節約にはなるというものであった。また、道路が大竹中学校の校舎から約七メートル離れることになるのはそのとおりであり、被告広島県知事や大竹市において道路が大竹中学校に近接して築造されたならばどのような教育環境への影響があるかについて特に検討を行ったわけではないものの、なるべく離したほうがよいであろうという考慮がなされたものである。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 前記(1)認定の事実によれば、大竹市は昭和四七年において、市施行区間に関して原決定の都市計画道路と異なる位置に道路を築造する方が妥当であると判断していたのであるから、この時点において、被告広島県知事等関係諸機関と協議して都市計画の変更手続をとるよう促すべきであった。しかるに、大竹市は、このような手続をとらずに原決定と異なる位置に道路を築造して都市計画事業の実施をしたのであるから、右事業の実施は原決定に反し、違法という外ない。同様にこれに先立ってなされた被告広島県知事による県施行区間の都市計画事業の実施も違法であるというべきである。

しかしながら、都市計画事業が違法に実施されたからといって、右実施の内容と一致させようとする都市計画の変更決定が直ちに違法となるものではなく、右変更決定も、前記考慮要素についてなされた決定権者の判断に社会通念上著しく不相当な点がなければ、裁量権の逸脱濫用はなく、適法と解するのが相当である。なぜならば、既に事実上実施された事業が合理的であっても、事業開始前に適法な都市計画の変更決定を怠っていたという一事をもって、右事業と同内容の都市計画の変更決定をすることが許されないとすれば、結局のところ、適当な規模、位置の道路を配置するという法一三条一項四号の理念を実現することに重大な支障をもたらすこととなるからである。

そこで右の見地から右変更決定の根拠についてみるに、被告広島県知事は、その根拠として、〈1〉誤って本件都市計画道路を築造したものの、その築造については関係地権者の同意を得ていて、その存在を前提として一〇数年来にわたって築かれてきた権利、利用関係を覆すのは、原告らの事情を勘案しても相当でないこと、〈2〉県施行区間、市施行区間共に、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された「検察庁前の市道」を拡幅し利用することにより事業を実施することができ、この方が原決定にかかる道路よりも周辺の土地の適正かつ合理的な利用に寄与し得るものであること、〈3〉用地補償費も県施行区間、市施行区間共に軽減されること、〈4〉大竹中学校校舎との距離も七メートル離すことができるため教育環境上望ましいこと、の四点を挙げる。

(3) まず、〈1〉については、原告加納敏雄本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、本件変更当時、原告らの他には本件都市計画道路の築造に特段反対する者はなかったこと、完成した道路部分はその後利用に供されていることがそれぞれ認められる。したがって、既存の事実状態の尊重ということは一応変更理由としては是認し得るものである。

次に、〈2〉については、前記認定事実によれば、「検察庁前の市道」のうち本件都市計画道路の本体に利用した部分は一部に過ぎないし(この他、証人吉田弘は、原決定と本件都市計画道路の法線とを比較してどちらが相当かを検討するに当たって、不整形な土地がどのように発生するかの点をも考慮したというが、一般には不整形な土地の発生如何よりもまず法線をどのようにするかが決定されるものであるとも証言する。)、東栄中市線とは直角に交わらなくなってしまったという事情もある。とはいえ、既存の道路を一部とはいえ利用できるとすれば次の〈3〉(用地補償費)に関係するので、変更理由として全く是認できなくもない。

〈3〉については、前記(1)認定のとおり、市施行区間の用地補償費はかえって本件変更により増加するし、県施行区間をも考慮しても、全体の用地補償費等からみれば、費用の節約は微々たるものと言えなくもないが、それでも一応変更理由として是認できなくもない。

〈4〉の大竹中学校の教育環境の点は、校舎が前記のように建てられた以上は(その建て方に問題があるとはいえ)、道路を校舎から離す方が望ましく、そのためには原決定の案より本件都市計画道路の法線の方が望ましいとはいえるであろう。

(4) さらに、原告らは、本件変更決定は、原決定を信頼した原告らに多大な不利益を課すものであるから、右事情は被告広島県知事の有する裁量の範囲に制約を加えるものである旨の主張をするが、法二一条は、社会的、経済的条件の変化等により、いったん定められた都市計画もこれに応じて変更する必要があることを前提にしており、特段の事情のない限り、私人は都市計画が変更されないことについて法的に保護されるべき期待を有しないというべきではあるところ、前記認定の経緯で原決定違背の事実が明るみに出たものの、本件でも原決定後の諸事情の変化によっては変更されることがないわけでもないから、もともと原決定のとおりの道路を築造することが最終的に確定したわけではなかったものである。

(三) 以上のとおりであって、本件変更決定に際しての被告広島県知事の判断には疑問点もなくはないが、合理的といえる部分もあるから、本件変更決定が社会通念上著しく不相当であるとはいえず、したがって裁量権を逸脱濫用したものということはできない。

4 次に、本件変更決定の手続に違法があったか否かについて判断する。

(一) 都市計画地方審議会は、都市計画の策定ないし変更に際し、適正手続の保障の見地から設けられた法定の機関であり(法一八条一項、二一条)、単なる諮問機関にとどまらず、都道府県知事は、右審議会による承認の答申を得なければ、都市計画を決定し又は変更することができない。また、右審議会では、利害関係人等から提出された意見書の要旨を勘案して審議がなされるのであるから(法一七条二項、一八条二項、二一条二項)、右審議会は、利害関係人等の権利・利益の保護をも目的とする重要な機関であるというべきである。そうすると、審議会の議を経ていても、右審議会に当然提出されるべき重要な資料が提出されず、また、重要な事実につき誤った前提の下に審議がなされるなど審議が尽くされていない場合には、当該都市計画の決定又は変更には法一八条二項又は二一条二項の規定に違背する違法が存するものと解すべきである。

(二) そこで、右審議会での審理手続について検討する。

被告広島県知事が本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したこと、その過程で、忠雄は被告広島県知事宛に本件変更決定に対して反対する趣旨の意見書を提出したこと、昭和五一年三月二三日開催の第五五回広島県都市計画地方審議会においては、審議員に右意見書の要旨が配付され、広島県都市計画課長が被告広島県知事の主張するような前記3(二)(3)の〈1〉ないし〈4〉の理由を説明し、本件変更決定をすることが適当であるとの答申が出されたことは当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いのない甲第二号証、乙第一二、第五一号証によれば、本件変更決定がなされ、原告らが任意買収に応じなければ、結局原告らの土地建物が収用されることは忠雄の提出した前記意見書の第4、第6、第7項から読み取ることができること、前記審議員に配付された意見書の要旨中には単に被告広島県知事の主張するような理由が失当である旨の忠雄の主張だけが記載され、右の収用問題は削られていたこと、右審議会において、審議員の一人が、広島県の都市計画課長に対して、本件変更決定をするならば周囲の土地所有者に迷惑が掛かるのではないかと質問したところ、同課長は、右意見書の中にはそのような記載はないとか、私権制限の問題は一切生じないなどと答弁したこと、右答弁の結果、右の問題についてはそれ以上議論されなかったことがそれぞれ認められる。

なお、原告らは、広島県や大竹市がことさらに偽造図面を用いて公衆等を欺いた旨主張するけれども、そのような事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 右認定の事実の他、前記3で認定の本件変更決定に至る経緯を併せ考えると、右審議会においても、原告らの土地建物の収用問題について当然言及があってしかるべきであり、また、同課長が右問題を知らなかったとは思われないから、同人は右の点について議論を避けるような著しく誠実さを欠く答弁をなしたと見るほかない。この他、前記3で認定のとおり、変更の根拠の合理性には多々疑問がある(特に、市施行区間の用地補償費の軽減の点は明らかな誤りである。)にもかかわらず、変更が適当であることについて概括的な説明しかなされていないことも考えると、右審議会の審議手続において審理不尽等の違法があると言わざるを得ない。また、右審議会において、仮に同課長が原告らの土地建物の収用の件等や本件変更決定に至る経緯につき誠実に答弁していたならばその結論がどうなったかは定かでないと考えられるから、右審理不尽は取消事由を構成すると解すべきである。

三 請求原因4について

右二認定のとおり、本件変更決定は違法であるから、本件認可決定もその違法を承継するというべきである。しかし、右の違法が重大かつ明白なものとまでは認められない。

四 請求原因5について

請求原因5の事実は、昭和六一年(行ウ)第六号事件の当事者間に争いがない。

五 請求原因6について

同6(一)について判断するに、本件認可処分が違法であることは既に述べたとおりであり、その適法であることを前提とする本件裁決は、同様に右違法を承継するというべきである。

六 結論

以上のとおり、本件変更決定及びそれに引き続く収用裁決は、その余の点について判断するまでもなく、違法であると言わざるを得ない。

ただ、成立に争いのない乙第三四号証及び弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる乙第三五号証によれば、原告加納敏雄は、昭和六〇年九月二〇日、前記都市計画法違反の点について議会に陳情をなしたところ、同六一年九月一八日不採択となり、他方、昭和六一年九月一〇日には、白石地区の住民が、大竹市長に対し、多数の署名を集めて同地区における都市計画道路の早期完成を陳情していることが認められ、また、本件都市計画道路の周囲が密集市街地であることは前記のとおりである。してみると、本件都市計画道路は大竹市等の杜撰な都市計画の下に造られたものではあるが、公益性が高いものであり、また、前記審議会の議を経てから既に十数年が経過し、いまさら路線を変更するのではかえって密集市街地である本件都市計画道路の周囲の土地建物の所有者に対する影響が大であり、また、右道路を前提とする社会経済活動は二〇年来に及ぶことを斟酌すれば、本件変更決定及び本件裁決を取り消すときは、これにより公の利益に著しい障害を生ずるものと認められる。さらに、原告らが土地建物の収用によって被る損害は、適正な補償を受けることにより回復することができる。よって、行政事件訴訟法三一条を適用して、本訴請求をいずれも棄却するとともに、本件変更決定及び本件裁決がいずれも違法であることを宣言することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但し書、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

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